縛鎖−bakusa−

 


『ニゲルナ…』

『ミエテルくせに…』

『ムシするならオマエを…』




走り続けていると浮遊霊達は一人二人と離れて行くが、

その声と彼らの引きずる鎖の音が頭にこびりついて離れない。



やめてよ…近寄らないで…
話し掛けないで…



私の人生は私だけの物。
誰にも分けたりしたくないから…





傘を握っていたのに差すのを忘れて走っていた私はずぶ濡れだった。



家に駆け込みドアを閉め、恐る恐る後ろを振り返ると…

誰も憑いて来ていなかった。



ホッと息を吐き出し居間に入る。

狭い居間にはテレビゲームの音が響いていた。



「ただいま」と言っても中学一年の弟はゲームに夢中で気付かない。



絨毯の上には空のコーラのペットボトルとポテトチップスの袋が無造作に転がっている。



空のペットボトルを拾いイガグリ頭をボコッと叩くと、やっと弟は私の帰宅に気付いた。



気付いたけど視線はテレビ画面から離さないしゲームも継続中。



しかも「お帰り」も言わずに頼み事だけする。