まだ一人の願いも叶えていない私には、母の気持ちを正しく理解するのは難しいが、
何となく分かる気がした。
イイ人振りたい自分に…歯止めが効かなくなりそう……
12歳のまま成長が止まっている亮介君に、私の話しは難しいかも知れない。
けれど彼は話し終えるまで黙って聞いてくれて…
そして俯いて「分かった」と言った。
『分かった…千歳の人生を分けてなんて…言えない…
僕の人生は12年だった。
その内の1年を誰かにあげられるかって聞かれたら…出来ないって答える。
ごめん…もう千歳には頼まない…
いつか母さんがこのトンネルに来てくれるのを待つ…』
亮介君は私に背を向けた。
彼の体は半透明。
12歳の小さな背中の向こうに、暗く冷たく薄汚れたコンクリートの壁が見える。
彼は足元の鎖をジャラ…ジャラ…と引きずり壁際まで移動するとそこにうずくまった。
膝を抱えて顔を伏せ…
体が震えているからきっと泣いている…
心が痛かった。
12歳の少年を泣かせているのは私。
自分の身を守る為、こんな小さな少年の魂を救う事を拒否している。
これでいいのだろうか…?
こんなどす黒い心のまま長い人生を生きる事に意味があるのだろうか…?
自分を蔑んだまま生きる人生に幸せはあるのだろうか…?


