縛鎖−bakusa−

 


ポロポロとこぼれ落ちる透明な涙は、彼の頬を流れ顎先を離れると、

何もない空間で消滅してしまう。



それを見ていると、私が酷く残酷な仕打ちをした気分になり胸が苦しくて、

私の目にも涙が溢れた。




「ごめんね…亮介君…
ごめんね…私…怖かったの……」



『怖いって何が?僕と話す事が?』



「違うよ…話す事は怖くない。
お願いを聞くのが…怖い…」




彼は意味が分からないと言った顔で私を見上げた。



制服のブレザーの袖で涙を拭き、呼吸を整えてから話した。

無視し続けていた理由を。



霊達の願いを聞いて一人成仏させると、自分の寿命が一年縮まる。



私は今16だ。

大病や事故が無ければ人生は後60年は続くだろう。



60年の内の1年。60年が59年になるだけ。

そう考える事も出来るが、その1年はもしかすると特別に大切な1年になるかも知れない。



例えば孫が生まれるとか、ランドセル姿を見れるとか…


自分の子供や夫や孫との大切な物語を作れる筈の1年かも知れないのだ。