縛鎖−bakusa−

 


ゆっくりと振り返り10年振りに彼と向かい合う。



彼は変わらない。

緑色の薄手のジャンパーを着てグレーの迷彩柄のズボンを履き、足元は紺色のスニーカーだ。



焦げ茶色のサラサラの髪。

額からはいつも血が一筋流れている。



肌色も唇の色も霊体特有の青白い色をしているが、

目だけは黒曜石みたいに綺麗で、生きているかの様に輝いていた。



彼はゆっくりと立ち上がり、綺麗な漆黒の双眼で私をキッと睨み上げた。




『何でだよ…母さんを呼んで来てって言ってるだけじゃないか…

母さんを連れて来て僕の気持ちを伝えてくれるだけでいい。

言わなくちゃいけないんだ…謝らなくちゃいけないんだ…

それだけなのに……何で無視するんだよっ!!』




悔しさと切なさと苦しみと…

負の感情がごちゃまぜになった様な色が瞳ににじみ…彼は涙を溢れさせた。