そこからは迷う事なく彼の記憶の道順を辿り、自宅に着く。
赤いトタン屋根、ベージュの壁の二階建て。
表札は「岸本」だから間違いないだろう。
玄関ドアの前に立ちインターホンを鳴らす。
数秒おいて女性の声で「はい」と返答があった。
きっと亮介君の母親だ。
昨日、黒ずくめの服装で苦しそうに事故現場に現れた彼女だ。
インターホン越しに会話する。
「北川千歳と申します。
大切なお話を預かって来ました」
そう切り出すと「は?」と言う怪訝そうな声の後、
「宗教の勧誘やセールスはお断り…」と言われ切られそうになる。
慌てて言葉を付け足した。
「亮介君の願いを叶えに来たのです。
あのトンネルから今も出られずにいる彼の代わりに来ました。
話しを聞いて下さい」


