母の右手には6歳の私、
左手には3歳の弟の小さな手が握られている。
私と弟の存在が、その時亮介君を見ようとした母を止めたのだ。
母は霊達の想いを背おい寿命を擦り減らして早死にした…
陰で彼らに接触していた母だが、私の前では決してそんな姿を見せなかった。
今思えば母は亮介君を助けたいと思った事も度々あるのだろう。
でも出来なかった。
「無視しろ」と教え込んで来た私の手前、自分がそれを破る事は出来なかったのだ。
私も母の言葉を守り、彼の悲しい叫びを必死に無視し続けていた。
しかし…冷たい雨の降る小学校からの帰り道。
トンネル内で膝を抱えて座り込み、震えながら泣く彼の姿が余りにも可哀相で…
つい話し掛けてしまった。
「お兄ちゃん…寒いの…?」
想いは背負いたくない。
ただ可哀相で無視出来なかっただけ。
その気持ちが、彼の震えの理由を寒いからだと決めつけた。
彼は驚いた顔をして目の前に立つ6歳の私を見上げた。
それから今度は嬉しそうな顔で立ち上がり、6つ年下の私を見下ろした。


