出口まで後数歩…
強張る気持ちを僅かに緩めた時…
足首を掴まれた。
掴まれたと言っても彼らは実体を持たない。
掴む格好をされたと言った方が適切かも知れない。
だから足を止める必要は無いのだが…
私の左足は地面に縫い付けられた様に動かなくなった。
手を伸ばして来たのは少年。12歳の少年。
額から一筋の血を流し、冷たい地面に体育座りをした格好で、
横を通り過ぎ様とした私の左足首を掴んだのだ。
実体のない小さな手を無視してトンネルを出なかったのは、彼に言われたから。
『千歳…次に無視したら…呪い殺すって言ったよね…?』
その少年は今朝もここに居た。
今朝も昨日も一昨日も…
彼は10年前からここに居る。
名前は岸本亮介。
歳は10年前も今も変わらず、ずっと12歳。
数居る霊体の中で何故私が彼の名前だけを知っているのかと言うと、
一度だけ話しをしてしまったから。
あれは10年前、私がまだ6歳の時の話し。
このトンネルで崩落事故が起きた。


