男子のロッカールーム。

グイッと手を引かれ、断る間もなく個室に押し込まれた。

賑やかな砂浜から、少し離れた場所。
人けは少ない。

ここに来るまで、誰ともすれ違わなかった。



「大丈夫?」


大丈夫なわけがない。

矢島くんが私の顔を覗き込む。
私はブンブン首を振る。

ここは男子のロッカールーム。
だから、声も出せない。


狭い個室、どうしても体がくっついてしまう。

しかも、水着。
パーカーとハーフパンツは、外に置きっ放しで、身体は隠せない。

そりゃ、隠すほどのものじゃないけど、やっぱり隠したい。

私は胸の前で、手をクロスさせる。


矢島くんも私の気持ちが何と無くわかるようで、身体に触れていた両腕を私の後ろの壁についた。


ひゃあ…!

身体に触れない代わりに、矢島くんの手の中に囲われている状態。

矢島くんは上半身裸。
目線が泳ぐ。

どこ見ていいのか分からない。




動揺する私に、さらに動揺させる一言。

「ねえ、上原さん、ここならいいよね?」


私は、小刻みに首を横に振る。
無理無理無理!


「大丈夫、誰も見てないし、恥ずかしくないよ。」


矢島くんは、私の肩に手を置き、深呼吸二回して、目を開けた。


矢島くんの目を見て、来る!そう思った。


「目、閉じて…。」


ああ、やっぱり…
私はぎゅっと目をつぶった。