上原くんが立っていた場所に近付くと、懐かしい時間が蘇る。


更衣室の壁に書かれた、6人分の名前。

鉛筆で書かれたそれに、そっと指で触れた。



夏休みのプールをさぼって、ここでずっと話していたんだっけ。



昨日のテレビのことや、塾のこと。

学校のことや将来のこと。

矢島くんの話に大笑いしたり、藤崎くんに塾の宿題を教えてもらったり、綾香と美紀とは男子に内緒の話をしたりした、この場所。


思い出すのは、降りしきる蝉の声とプールから聞こえてくるはしゃぎ声。


上原くんは、この壁に寄りかかって、漫画を読んでいた。

時折吹く風に、前髪を揺らしながら、俯き加減で本に視線を落とす横顔が、ずっと目に焼き付いている。



「暑いね。」


「あっちーなー!」


「暑すぎじゃね?」


同じような言葉を口にしながらも、何時間もこの場所にいたのはなぜだろう。

水筒に入った氷をガリガリ噛みながら、流れる汗を拭き拭き私たちはここで過ごした。