採用されて、真っ先に行った2階の売り場。


…あった…。

あのとき買った万年筆。

懐かしいと手に取った。


上原くん、絵、描いてる?

漫画、上手だったよね。

私の中学の教科書、上原くんの落書きでいっぱいだよ。


あ…ダメだ。

泣かないって決めたのに…。


万年筆を棚にそっと戻して、トイレに駆け込んだ。







初めて出たお給料で、あの万年筆を買った。

同じものを持つことで、繋がっていると思えたから。



漫画も練習してみた。

上原くんみたいに、うまくは描けない。

けれど、描くことは楽しかった。



上原くんなら、どうやって描くんだろう。

上原くんなら、どんな色をつけるだろう。



上原くんのことを考えながら描く絵は、スケッチブックを埋め尽くしていった。



泣く時間はだいぶ減った。

けれど、上原くんのことを忘れることなど、できなかった。