レンタル彼氏【完全版】

「カバン」

私の目の前に出された、私のカバン。


「あ、ありがと」

一応、お礼を言って手を伸ばす。


が、その手はカバンを掴むことなく宙を舞う。
私のカバンは聖の後ろに回されていた。


「………返して」


「…返す気だったけど、気変わった」


「は?」


「尚子ちゃん、いずちゃん借りてくね?」


何で尚子に断り入れるの?
尚子も頷いてるし!


私はまた、強引に聖に腕を引っ張られて外まで連れていかれた。



…………また、拒否出来なかった。


がっくりしながら聖の背中を見つめる。

「いずちゃんさ、何かしたいことない?」


「は?」


「好きなことしよーよ」


「好きなこと?」


「うん、好きなこと」


「…………それしたらカバン返してくれんの?」


「どうかな?」


「じゃあ、いい」


「えー?」


「………とりあえず財布だけ頂戴」


「財布?」


ぴたりと足を止めると、聖がカバンを漁る。

「………これ?」


にっこりと私の財布を私に差し出した。