きっかけが何だったのか、覚えていない。

気がつくと僕はいつも《それ》のおかげで、不思議な出来事に巻き込まれていた。

僕自身が望まなくとも《それ》はやってくる。

何の前触れもなく、突然に………。






「おい、狭間!!」




大きな声で名前を呼ばれて、僕ははっと我に返った。


「あ、はい…」


「あ、はいじゃない。次の項目を読んでみろ」

現文の鈴木が睨んでいる。

「………」


しまった。

ぼーっとしていて、授業内容なんて全く聞いてなかった。

次の項目って、一体どこだ?


ぱらぱらと教科書を捲る僕の隣から、高村の声が聞こえる。

(125ページ…)

何とか読み終えて席に座ると、声を出さずにそっと高村に礼を言った。


時間は後20分で昼休みに入る。

少しは真面目にノートでもとっておくか…。



………ん?



足に何か当たった感覚がして、机の下を覗き込むと消しゴムが転がっている。


誰のだ、これ。


僕は何も考えずに、それを拾い上げた。

何の変哲もないモノ消し。

購買で扱っている商品だから、大半の生徒はこれを使っている。

小学生じゃあるまいし、名前など書いてあろうはずもなく……。

僕はこれを探している人物がいるのではなかろうかと、辺りをそっと見回した。



ぐにゃり。



突然、教室の窓ガラスが歪む。



えっ!?



まるでテレビの画面が電波障害で歪(ひず)みを生じたかのような、目の前の光景。


僕は隣の高村を見る。

彼の顔も窓ガラスと同様、見事に歪んで原型を留めてはいなかった。



どくん、どくん……。



自分の鼓動が、いやに大きく耳に響く。


イスに座っている事すらままならない程ひどい眩暈に、僕は体のバランスを崩して床に派手な音を立てて倒れ込んでしまった。

教室がにわかに騒がしくなる。

だけどそんな事は、どうでもよかった。


気分が悪い……。


僕はぎゅっと目を瞑った。