いやいや、それはダメだ。


どうして私があんな男のストーカーをしなきゃいけないんだ。


とにかく、せっかく来たんだからお礼を言いに行かなくちゃ。


お礼を言うだけ。


お礼を言うだけ。


そう自分に言い聞かせる。






アパートの前に立ち尽くして30分が経過した。


本当に何をしてるんだ、私。


これじゃあ不審者として通報されてもおかしくない。


「はぁ…」


思わず溜め息が出た。


今日はやめよう。


そもそも連絡をとってない訳だし、突然訪ねたら迷惑になるし、いないかもしれないし。


そんな言い訳を重ねながら、アパートに背を向けて歩き出した。





そうよ、なにも今日訪ねなくたって。


また明日にしよう。


そう自分に言い聞かせ、歩き始めたときだった。


「にゃー」


…にゃー?


「にゃー、にゃー」


振り返ると猫が5匹、私の後ろで鳴いていた。


「また?」


私は昔からなぜか猫に好かれる。


普通にその辺を歩いているだけで、気がついたら猫がいっぱいついてくるのだ。


「にゃー」


後ろから、また猫が一匹現れて私の足元に寄ってきた。


「にー、にー」


私の前からも猫が寄ってくる。


…なにこれ。





気がつくと私はたくさんの猫に囲まれていた。