雪見さんはすでに二つ目のショーケースに取り掛かっていた。
俺もやらないと…
さっきのトイプードルのケースをあけ、エサを入れてやる。
「ウゥー…」
低い唸り声をあげるトイプードル。
これは早く手を引っ込めた方が良さそうだ。
「ワン!!!」
「いてっ!!」
親指を思いっきり噛まれてしまった。
だから犬は苦手なんだよ。
「だ、大丈夫…?」
雪見さんが心配そうに俺の方を見ていた。
「大丈夫。」
一通り片付けと餌やりを終え、仕事もひと段落ついた俺と雪見さんは休憩をもらった。
2人で休憩室に入ると、部屋の隅で背の高い男性がコーヒーを片手に壁にもたれかかっていた。
「あ…吉田さん。」
俺たちに気がついた男性が手を振る。
「日菜子ちゃんにアキハくんじゃん。」
彼は吉田直也。
ここのアルバイトで、二十歳の大学生だ。
担当はカメやトカゲ、魚などの売り場であり、俺たちと大体いつも同じぐらいの時間にシフトが入っている。
そのため割と仲がいい。
「いやー疲れたよ、ホント。ヘビのケースの掃除しようと思ってふた開けたらさ、ヘビ逃がしちゃって!」
吉田さんは笑いながら話す。
この人前もトカゲ逃がしていたけどよく解雇にならないな。
「そういえばさ、君たち。」
吉田さんがニヤニヤしながら俺たちを見つめる。
「なんですか?」
「今日なんの日か知ってる?」
「今日…ですか?」


