もし風見鶏が振り向いたならこの世界は違って見えるのだろうか? 【短編】

「えっ?雄鶏?」

「はい、風見鶏は全て雄鶏でございます。」

「そうなの?」

「はぁ……、嘆かわしき事。
私の自慢の鶏冠(とさか)を
ご覧くださいまし。」

「言われてみれば……。」

「これ、ひとえに雄鶏は
非常に警戒心が強いことから
屋根の高い位置に上げ、
魔除けの役目を担っているのです。」

「へぇ……そうなんだ。
警戒心強いんだ。」

「ええ、ですから
貴方はご自分を臆病者と仰いましたが
私から言わせれば単に警戒心が強いだけでは?
と、思うのですが。」

「どうだか。」

僕はそっけなく返した。
何故なら、風見鶏の言う警戒心は
僕のそれとは違う気がしたから。

僕が困り顔をしていることに
気づいたのか、風見鶏は話を
切り替えた。

「しかしながら、
この国では些(いささ)か、
違う意味の方が主流でございますね。」

違う意味……?
………………
ああ、なるほどね。

確か昔、風向きによって
コロコロと方針を変える大物政治家が
風見鶏ってあだ名をつけられて
いたんだっけ?

「僕はどちらかと言えば
前向きな意味で捉えていたけど。
後、デザイン的に美しいとか……かな。
その……君に対してのイメージなんだけど。」

「そうですか。
それは嬉しゅうございます。
そう言っていただけると励みになります。」

風見鶏は満足げに笑った。

「さぁ、そろそろ着く頃でございます。」

「着く?」

「さぁ、
さあ、さぁ、起きてくださいまし…………
………さあ、起きて………………………………………」












「ほら、起きて。尼崎過ぎたよ。
次、大阪やで。もう、起きてよ。
起きへんのやったら置いてくよ。」

「んん…………風見鶏は……えっ?」

「クスクス……風見鶏って何それ。
夢でも見てたん?」

「ゆ、め……?
ああ……夢見てたのか……。」

やはり、単なる夢だったのか。
デジカメの画像をチェックしていて
そのまま寝てしまったんだな。

「あっ、ほら、言うてる間に大阪や。
降りるで。」

「えっ、あっ、う、うん。」

僕は頭がまだボーッとしているものの
慌てて降りる用意をした。