「ひと目、見とうございます。
その、私のーーー未だ見ぬ姿を。」

「見たことないの?」

「はい、この塔屋の上にずっと
居りますので、自身の姿と言うのは
ちゃんと見たことがございません。」

「そっか、いいよ。見せてあげるよ。
ちょっと待って。今、画像出すから。」

僕はデジカメのスイッチを入れると
先程、撮った画像を用意した。

「さぁ、どうぞ。
と言っても……この距離があっては
見れないよね?」

「はい……私の位置からでは
画面が小さく、よく分かりません。」

僕は何か手だてはないかと考えたけれど
結局、何も思い付かなかった。

「ごめん、見せてあげれないね。」

「謝るのはよしてください。
今、私は喜んでおります。」

「どういう事?」

「はい、それはーーー
何事にも熱心な貴方の事ですから、
いつかきっと
私に見せてくださいますでしょ?
今日、撮ったお写真を。」

「そうしてあげたいとは
思うけれど……。実際、するかどうか……。」

僕が正直に答えると

「それで、いいのです。
それだけで十分でございます。
つまりは私にも夢が出来たという
ことでございます。
いつか、見れる日が来るやもしれないと、
その日が来ることをただ夢見て、
また風に立ち向かう事ができるという
ものでございます。」

「そういうものなの?」

「はい、そういうものです。
風見鶏とて、来る日も来る日も
風にばかり向かっておりますのは
疲れるというものです。
時にはせめて、首だけでも振り向いて、
風が吹き抜けてゆくその先を
ゆっくりと見てみたいものでございます。
風を受けるこの街の景色はキラキラと輝き
やはり美しいのでございましょ。」

「ふうん、なるほどね。君も大変だね。」

「貴方はお優しいですね。」

「そんなこと……。
ーーーーただの臆病者だよ。」

そう、僕は臆病者だ。
雪国育ちだから我慢強い
なんてのは言い種で、
実際は逃げているだけなんだ。
いつだって変わって行く
この現実から逃げているだけ……。

もしかしたら、今、この見ている世界も
僕の逃げ場所?

「ご存知ですか?
風見鶏は雄鶏の役目であると。」

僕の頭の思考を断ち切るように
風見鶏が言った。