もし風見鶏が振り向いたならこの世界は違って見えるのだろうか? 【短編】

僕と万由利は一旦改札を抜けると
万由利が乗り換える
北新地駅に向かって
いつくものテナントや
デパートのある地下道を歩きだした。

「きっと、うちらの方が早かったんちゃう?」

「えっ、早いって?」

「だから、神山がまだ本屋さんには
辿り着けてないんちゃうかなって。」

「ああ……。どうだろね。」

「どうだろねって。
そりゃ、阪急よりJRの方が早いよ。」

僕は万由利がここにはいない
神山の話題をすることが
何か面白くなくて素っ気ない返事になった。

こう言うところ、
自分でも大人げないと思う。

「…………じゃあね。」

北新地駅に来たところで
西梅田へとさらに向かう僕に
万由利が言った。

「ああ、じゃあな。
今日は助かった。
一人じゃやっぱり、行けなかったよ。」

「まあね、また行くんやったら
なんぼでも付き合うからね。
まぁ、私からしたらあの辺は庭よ。」

と、
おどけて言う万由利はやはり
可愛くて仕方ない。

きっと、
神山みたいなタイプだとこういう時、
素直に思ったままを本人に
言うんだろうな。

そして、お茶にでも
誘うのだろうか。

それとも食事か映画とか……

何れにしても
僕には出来ない事だけど……。

「…………じゃあ、また明日ね。」

微妙な間を断ち切るように
万由利が言った。

「おう。」

胸元で小さく手を振る万由利を置いて
僕は地下鉄西梅田駅へと
歩き出した。

けれど、
何かが引っ掛かった。
それはさっき見ていた
風見鶏の夢のせいなのか。

それとも
ただの気まぐれなのか

僕はその場に立ち止まると
何となく、
ただ、
何となく振り向いて見た。

するとーーー

万由利はまだその場で立っていた。
そして振り返った僕を見て
嬉しそうに笑いながら
また手を振った。

その姿に胸がきゅっとなった。

ああ、
何かが変わろうとしている。
風見鶏がたまには振り返り
風の抜けて行く先を見てみたい
って言ってたように

僕はーーー

万由利に向かって歩き出した。
万由利は一瞬「ん?」って
顔をしたけれど
直ぐにまた笑顔になった。

そして、