恋を知らない人魚姫。


上手く言葉に乗せられて受け取ったものの、彼がくれたものがあるのはやっぱり嫌で。

隙があれば返そうと、今朝ハンカチと一緒に持ってきていたんだった。

「えっと……」

何か言わなきゃならないのに、上手い言葉が見つからない。

まさか愛海に見つかってしまうなんて思っていなくて……。

「あれ、水族館……?」

焦るあたしの気持ちなんてつゆ知らず、愛海は袋に書かれた名前に反応する。

「誰かと一緒に行ったの?」

あたしを見て、ほんの少し不思議そうに首を傾げる愛海。

誰か……それは櫻井くん。

だけどそんなこと、絶対に言えない。


「あ……お母さんと」

咄嗟についた嘘は少し苦しいけど、愛海以外に友達がいないあたしは、お母さんくらいしか思い浮かばなかった。

それでも愛海は、あたしの言葉を不審に思う様子もなく、

「そうなんだ。いいなぁ、楽しかった?」

ハンカチと一緒に、無邪気な笑顔を返す。

「……」

楽しかった……なんて、そんなことあるはずない。

思わず口ごもってしまったあたしに、「海憂?」と、愛海が声をかけて。

「えと、まぁ……お母さんとだしね」

返事をそれとなく、はぐらかした。

嘘でも『楽しかった』とは、言いたくなくて。