恋を知らない人魚姫。


「わ!朝なのに水ぬるい!」

蛇口をひねって手を洗う愛海。

あたしは一歩下がって、何でもない愛海の言葉に微笑む。

キュッと蛇口が閉まる音が聞こえて、カバンを返そうと近づくと、

「あー……忘れちゃった」

聞こえたのは、少し落ち込んだ愛海の声。

覗き込んでみると、ポタポタと手から雫が落ちていて。

何を忘れちゃったのかは、聞かなくても分かった。

「いいよ。貸してあげる」

ポケットからハンカチを取り出して渡す。

「あ、ありがと」

愛海はお礼を言って受け取る……けど、その目はこっちを見ていない。

どうしたの?と、あたしが聞くより早く、

「何か落ちたよ?」

愛海は手を拭きながら、しゃがみ込んだ。

その行動を追って床に落ちたものを見た瞬間、

ドクンッ。

心臓が強く鳴って、頭の中が真っ白になる。


「これ何?」

そう言って愛海が持ち上げたものは、白い小さな紙袋。

それは昨日、櫻井くんがくれたもの。