恋を知らない人魚姫。


あと、数センチ。

その距離まで、すごくすごく躊躇った。

『気持ち悪い』と言われ、手を払われたあの時のことが、嫌でもチラついて。

でも、最後の最後。

あたしの手を自ら掴んでくれたのは、愛海だった。


柔らかくて温かい、愛海の手。

しっかりと握られた瞬間、涙が零れた。


「許してくれるの……?」

手を引かれ、立ち上がりながら訊ねると、微笑んだ愛海の目からも涙が零れて。

「ずっと考えてたの。屋上で海憂とたっくんが話してたの……聞いた時から」

涙で言葉を詰まらせながら、ゆっくりと喋り始めた。

「あたしね、海憂が思ってくれてるほど、良い子じゃない。他の友達に合わせて、海憂の悪口に頷いたことだってある。だから……あたしがいじめられなかったのって、そういうことだよ。周りに上手く合わせてただけ……」

「ごめんね」って、小さく続けて呟いて、あたしの手を握った手は、小刻みに震えている。