恋を知らない人魚姫。


フッと吹きかけるみたいに、あたしの耳をくすぐった、彼の声。

体は軽いままで、さっきみたいに抱きしめられたわけじゃない。

だけど、すぐ触れそうな距離に、彼がいるのは感じ取れる。


「いきなりどっか行っちゃって、寂しかった?」

もう一度繰り返し、追い詰めてくる櫻井くん。

その楽しそうな声に、

「っ、そんなんじゃ……」

あたしは歯切れの悪い返事を返す。

何て言ったらいいんだろう。
いつものことながら、上手い言い逃れが彼の前だと浮かばない。

片づけるつもりで、手をかけたカーテン。

でも、これを開けてしまえば、外からあたし達の姿は丸見えで……動くことも出来ない。

次はどんな風に攻められるのか。

予想できない曖昧な想像を巡らせて、手にじんわりと汗をかく。


……だけど。


「それはそれは。残念」

櫻井くんがあたしに向けたのは、そのひと言だけで。

スッと頬に当たった、風のような空気。

そのまま……近付いていた体も離れた。