恋を知らない人魚姫。


これは罠。
あたしが行動を起こせば、それは櫻井くんの思うツボ。

分かってる。分かってる、分かってる……。


だけど――、


ガタンッ。


「……待って!」

あたしは貸出しカウンターを飛び出して、櫻井くんのシャツを掴んで引き止めた。

「……」

無言でゆっくり振り返った彼は、やっぱり嫌味な笑顔で……憎い、悔しい。

でも、

「愛海と……あなたが付き合うの、嫌なんだけど」

素直に言うしかなかった。

櫻井くんの狙いは、あたしがこうすることで、愛海と付き合うことは本意じゃない。

だけど、本当に付き合わない保証もない。

むしろ、この人なら……あたしをからかう為に、本当に付き合ってしまうかもしれない。

それを止めるには、こうするしかなかった。


櫻井くんは、「へぇ……」と、興味深そうな声を漏らして、

「何で?」

「え?」

「何で俺が天恭さんと付き合うの嫌なの?」

首を傾げて聞いてきた。

「それは……」

分かってるくせに。

とことんあたしを追い詰めようとするこの人は、一体何が望みなの?