恋を知らない人魚姫。


「確かに、教室のど真ん中で熱唱してる奴とか初めて見たな」

「っ……」

言うように仕向けたのはあたし。
それでも、グサッと刺さる。

更に熱く、赤く染まる顔。

もう何とでも言えばいい。
好きなだけ笑えばいい。

開き直るようにそう思い直してみても、次に言われる言葉を恐れて、自然と手に入る力。

早くここから逃げたい……って、思った時だった。


「でも、すごいきれいな声だったよ」


櫻井くんが続けた言葉。
それを聞いて、あたしは目を丸くする。

そんなの、からかう言葉のひとつで、真に受けるものじゃない。

だけど、


あたしは思わず彼へと顔を向けていた。


からかってるだけにしては、声の調子に感じた違和感。

何だか“優しい”……なんて、そんなことあるはずないって思うけど……。


櫻井くんの顔を見たあたしは、息を飲む。


少し見上げて見る彼。
夕日がぼんやりと照らすその表情は、

あたしに向かって微笑んでいた。