恋を知らない人魚姫。



「俺がホントは何……?」


扉についた腕の肘を少し折り曲げて、わざと縮める体の距離。

少し気を抜けば触れ合ってしまいそうな距離に、あたしは背中をぴったりと扉にくっつける。


鉄製のそれは、ひんやりと冷たい。

だけど、彼があたしに向ける微笑は、それ以上に冷たい。


「本当は……」

櫻井くんが好きなのは、愛海のことなんじゃないか……って、疑ってる。

だから、あたしのことが邪魔で、気に入らなくて、こんな嫌がらせをしているんじゃないか……って。


それを言うべきか、言わざるべきか、わずかな時間の間にすごく迷った。

櫻井くんが愛海のことを好きかどうか、自分で答えは見つからない。
本人に聞くしか、真実を知る術はない。

聞くならきっと今だ。
今しかない。

だけど、


「……ううん。何でもない」

あたしは首を横に振って、自分の発言をなかったことにした。

すぐそこにあるかもしれない真実。

触れて、もし“yes”だったら……どうすればいいか分からなくなる。