恋を知らない人魚姫。


何であなたがここにいるのよっ!

思いながら、それを口には出さずに、あたしは足を進める。

そして、古びたドアノブに手をかけた。

軽くそれをひねって引くと、校舎内の生暖かい空気が体にぶつかる……けど。


バンッ!


目の前でした音と一緒に、途切れた空気。

少し見えていたはずの薄暗い校内の様子は、いきなり見えなくなった。

見えているのは、長い指が規則的についた……大きな手。


「何で逃げんの?」

耳をくすぐるくらい近くで言われた声に、あたしは眉を寄せる。

屋上と校内を繋ぐ唯一の扉は、櫻井くんの手によって閉じられた。

……それだけじゃない。

あたしも、彼に捕えられたみたいになってる。


「手、退けてよ」

振り返らずに、あたしは扉へと体を向けたまま言った。すると、

「何で逃げんの?」

繰り返された質問。

答えなきゃ退けないって、その声が言っている。