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神社に祀られている封具の鏡が何者かによって割られていることを知らせてくれたのは、いつも境内の掃除を手伝ってくれる近所のおじさんだった。

その場に居合わせた朱里とともに、正文は現場に駆けつける。


「酷い・・・誰がこんなことを」


御堂の中を見た朱里は、粉々に砕けた鏡を見てつぶやいた。

「これはまずいな」

床に片膝をつくと、鏡とは呼べない程変色した欠片を正文は1つ手に取る。

「おじさん、これもう元には戻せないの?」

「うーん。ボンドでくっつけるとか、そういう次元の問題じゃないからね」

言うと、腰に下げた手拭いを広げ、丁寧に黒い破片を拾い始めた。

「これって古くからこの神社に言い伝えられてる鬼鏡、だよね? 中に閉じ込められてた鬼はどうなったの。鏡と一緒に砕けてなくなっちゃったの?」

「それだと何の問題もないんだろうけど・・・逃げたと思うよ・・・」

「えっ? おじさん、今なんて?」

「御堂のカギをわざわざ外して中に入った人間がいるんだ。鬼は割った誰かに憑いて逃げたんだろう」

 入り口の所に落ちている古いカギを見て、正文はため息をついた。


「嘘ぉっ、鬼が逃げたのーっ」


パニックになった朱里は、ぎゃあっと声を上げる。

「朱里ちゃん、女の子がそんなはしたない声出しちゃダメだよ。美人が台無しだ」

 正文はくすくすと笑う。


「おじさん、呑気にそんなこと言ってる場合じゃないでしょっ。探さないと、今すぐ探しに行かないとーっっ!」


朱里はあたふたする。

「でも私はここを離れられないからねぇ」

「じゃ、じゃあ、どうするの? 朱里もおじさんも町の皆も伝説の鬼に食べられちゃったりする?」

 この鏡の伝承を知っている少女は、真剣な顔で正文に尋ねた。
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