「私たち破魔に古くから伝わる言葉なんてない。もちろん書物や文献も、何もない。私も先代から何も教わらなかった。それよりも大切なのは、鏡の作り手との相性だ。それで全てが決まるといっても過言ではない。後はお前の心次第。鏡が封具として発動する、しないはそこで決まる」


「何ていい加減な…」


「いい加減ではないよ。鬼と対峙した時、どれだけ本気かということだろう? でなければ、反対に私たちが鬼に呑まれる」

「……」

確かに言われてみればそうかもしれない。

あの時鏡に書いた文字は、真剣にそれを望んだ秋文の心そのものだったのだから…。

「鬼を封じる時、鏡に何か話し掛けられなかったかい?」

「声が聞こえた。文字を書けば、それに従うって…」

それを聞いて、正文は微笑む。

「じゃあ、秋文は彼の作った鏡と相性がいいんだよ」

「?」

「いいパートナーに出逢ったな。八助さんも優れた才能の持ち主だが、紋瀬くんはそれに負けないだけの力を持ってる。過去の傷を抱えてはいるが、とてもいい少年だと思うよ。この出会いを大切にしなさい。彼が鏡を作ってくれる限り、お前の目は心配ない…」

そう言うと、

「さ、この鬼の話はこれでお終い。夕飯までまだ時間がある。それまで少し早いが、帰る準備でもしたらいいよ」

立ち上がり、正文は軽い足取りで家の奥へと消えていった。.