「抉(えぐ)る」

「ひぇっ」

「抉って元の箱に戻す」

「嘘だっ!!」

「本当だよ。でもそれが出来ないから、ずっとそこにあるんじゃないか」

再び自分の目を指さす父親の手をバシッと払い落すと、秋文は両手で自分の体を抱きしめてブルブル震える。

「ど、どうするんだよ。どうしたら…」

「心配しなくても破魔の血がお前を守ってくれる。鬼を見分ける力は得ても、生活するには何ら支障はないから大丈夫だよ。ただ…」

正文が言葉を切った。


「ただ…何…」


「その目を欲しがって色んな鬼がお前を襲ってくるかもしれないね」

「そんな…ね、父さん。鬼を封じる為の状況に応じて、鏡面にどんな言葉を書いたらいいのか教えて…今すぐ教えて!!」

顔面蒼白で秋文は父親の肩を掴むと、その体を前後に揺さぶる。

「まぁ…落ち着きなさい。そんなに焦っても仕方ないだろう?」

「こんな事聞いて、落ち着いてなんていられるかーっ」

キチンと勉強するからと訴え叫ぶ息子に、

「教えたくても『ない』んだ」

追い打ちをかけるように、父はきっぱりと言った。

「へっ?」

「ないものは、ない」

「何で、ない…んだよ」

半泣きの顔を見せる秋文の頭を、正文はポンポンと軽く叩く。


(ダメだ、もう立ち直れない…)


彼は恨めしげに父親を睨んだ。
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