そんな好奇心いっぱいの目を向けている息子に、正文は苦笑した。



「あぁ、知ってるも何も。開けたのは秋文…お前だからね」



「はい?」



話しが見えなくて、彼は首を傾げた。

「あれほど『開けちゃダメだよ』と言ったのに、子供のお前は好奇心から桐の箱を開けてしまったんだ」

「えっ…ぼ、僕が!?記憶、全然ないんだけど」

「一瞬の出来事だったからね」

「嘘…あはは、冗談はやめてよ」

「これが冗談に聞こえるかい?」

真顔で返されて、秋文は顔を引きつらせた。

「…それで?箱を開けた後、鬼の目はどうなったん、だろ…」

怖くなって、段々声が小さくなっていく。

「あるじゃないか、そこに」

正文は息子の左目を指さした。


「ひっ!!」


思わぬ告白に、息を呑む。

「鬼封じの鏡を壊した人間がその鬼に憑かれてしまうように、パーツの封印を解くとそれは解いた人間の一部になるんだよね、あれ」

にこにこ。

他人事のように話す父親に、秋文は眩暈がした。

ここでようやく、あの時鬼が言った意味を理解する。

《あぁ…やっと見つけた…返して貰おう…我の…》


(あれは僕の中に鬼の目があったからなんだ…ん、だとしたら僕の目はどこにいったんだ?)


何とも言えぬ不安に襲われて、変な汗が額に滲んできた。

さっきとは違う意味で心臓ドキドキである。

……と。

「秋文の目と鬼の目は、同化して1つになってるんだよ」

そんな息子の心を読んだのか、正文はサラリと言った。

「なっ、嫌だ…冗談じゃない!!そんなものと1つになんてなりたくないよっ。もう一度封印するにはどうしたら…」

「1つだけ方法がある」

「本当!?」

藁にも縋るような思いで、秋文は父の言葉を待つ。

だが、それはたった一言…残酷なものだった。
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