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それから一週間。

紋瀬が退院して木谷村へ帰った後、いつにも増して怒涛のような忙しさの八月も残すところ後十日余りとなっていた。

秋文自身もそろそろ大学の生活に戻る為、あと数日もしたら帰りの準備を始めなければならなくなる。

そんな暑さの厳しい午後。

珍しく縁側で彼は父親と2人、夕涼みをしていた。

「父さんに聞こうと思っていた事があるんだ…」

「私に…何だい?」

談笑していた息子の口調が急に変わり、正文は目をパチクリとさせる。

「紋瀬がこの前封じたあの鬼は片目がないって言ってたんだけど、父さんはひょっとしてその《在りか》を知ってたりする?」

温くなった麦茶を飲みながら、秋文は心に引っかかっていた事を尋ねてみた。

すると、

「鬼の片目…あぁ、そう言えばそんなものがあったなぁ」

正文はすっかりその存在を忘れていたかのような口ぶりで頷いた。

それからチラリ息子を見ると、大きなタメ息をつく。

「な、何?」

「あの事を覚えてないのも無理はないか…お前はまだ小さかったからね」

「覚えてない…って?」

まるで過去に自分が《それ》を見たことがあるように聞こえて、秋文は訝しむ。

「十三代目が封じたあの鬼は、とても強い力を持っていてね。封じはしたものの、彼には後々の不安が残っていたようなんだ。だから万が一鬼が復活した時の事を考えて、不完全な状態にしようと片目を奪った。そうして、それだけを別の箱にしまったんだよ」

「封じた後から、そんな事が出来るの?」

「彼は優れた才能の持ち主だったらしいから、可能だったんだろうね」

「その目を入れた箱は?」

「代々子孫の手によって現代まで大切に守られてきた。けれど、ここにきてその禁忌の箱を開けてしまった人間がいてね」

「箱を開けた…誰が?もしかして僕の知ってる人?」

秋文は初めて耳にする事実にドキドキした。

鬼が現実にいる今となっては、目の入った箱が存在していたと知っても素直に信じられる。
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