「…あの、怪我人の横でケンカするのやめてもらえます?」

いつ目が覚めたのか、ベッドに横になっている少年は顔を顰めながら訴える。

「ああ、ごめんね紋瀬くん。全てにおいて躾のなっていない息子で…」

正文はさらりと全てを息子のせいにすると、

「秋文。今回の事、ちゃーんと紋瀬くんに謝るんだぞ」

しっかり釘をさして、病室を出て行った。


(あのくそ親父…)


心の中で毒づく。

普段は秋文を子供扱いするくせに、人前ではわざと反対のことを言うのだ。

そんな怒りの収まらない彼の隣で、

「あんた、本当に甘々のべったべたに可愛がられて育ったんだな」

窓の外を見たまま、紋瀬がぼそりと言った。


(今度はこいつの攻撃か…!?)


さっきから言われ放題な状況に、秋文の顔面は引きつりっ放しである。

だが、次に彼の口から出てきた言葉は、意外なものだった。


「神主としての勉強、しろよ。でないと、またこんな場面に出くわしたら命がいくらあっても足りない…素質があるのなら尚更だ」


「――――あ…」


彼の言葉の端に、自分を認めているのだというニュアンスを感じて、秋文は嬉しさを覚え自然笑みが零れた。

「…うん。どこまでやれるか分からないけど、今回の件で僕は真剣に父さんの後を継ぎたいと思ったよ。あのさ、紋瀬…くん。その…僕の為に鏡を作ってくれないかな?」

「紋瀬でいいよ。気持ち悪い」

そっけなくそう言った後、

「オレとあんたは、鬼を封じる《運命》から逃げられない。あんたがオレの鏡を必要なように、オレにはあんたの力が必要なんだ。その為の協力であれば、鏡なんていくらでも作ってやる」

彼はまっすぐな瞳を秋文に向けた。

そこにとても強い意志を感じる。

「僕はあんたじゃなく秋文だ。よろしくな、紋瀬」

秋文はふわり笑うと、彼に右手を差し出した。
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