「うーん、これはどういう事だろう」

両腕を胸の前で組むと、眉間に皺をよせて考え込んだ。

目の前には小さな鳥居、そして上へと続く長い石段。

この先は、どうやら神社のようである。

気がついたら、彼はここにいた。

いつからか記憶がふっつり途絶えていて、どうやってたどり着いたのか分からない。

バスを降りて、目的の場所へ向かっていた事までは覚えているのだが…。

何がなんだか、さっぱりなのだ。


とにかく。


気がついたら見知らぬ場所に来ていた、とそういう訳だった。

誰か周囲に人はいないか…そう思って見回していると、


「おい、お前」


どこからともなく、男の声がした。

彼はキョロキョロとせわしなく顔を動かし、声の主を捜す。

しかし、姿はない。

「…今、確かに声が…」

した気がしたのだが、気のせいだったのかと肩を竦めた。

「お前だよ。今、肩をすくめたお前」

と、再び同じ声の主。

「俺?」

彼は自分の顔を指さした。

「石段を上がってきてくれ。人手が欲しいんだ」

「上…って、境内?」

「そうそう。早く、早く」

「…」

(この声、どっからしてるんだ?)

彼は首を傾げたが、困っているように感じたのでその指示に従って石段を登り始める。

何段くらいあるのか…日頃運動している彼でも、上にたどり着くまでには足がすっかりだるくなっていた。
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