「だけどあまりにも破魔の力を信じられ過ぎて、凄い言葉責めにあったけどね…あ、そう言えば」

急に思い出したと、彼は紋瀬のデイバッグから鏡を取り出すと父に渡す。


「これは驚いた」


正文は鬼を封印した、新しい鏡を見てつぶやいた。

鏡面が黒く濁っている。

それは封印した証、だ。

「やればできるじゃないか」

言われ、秋文は訝しげな顔をする。

「父さん、あの騒ぎを敷地のどこかで見てたんじゃないの?」

あれだけの凄まじい鬼の気配や鏡の力を、この父親が感じなかったとは思えない。

だが、

「いやいや、全然知らなかったぞ」

正文はぶんぶんと首を横に振って、息子の考えを否定した。

「嘘だ…見てただろ。見てて、助けてくれなかったんだろ。彼が鏡を持ってたから良かったものの、なかったらどうするつもりだったんだよ。僕たちを見殺しにしてたのか?」

「人聞きの悪いことを…傷つくなぁ。あの時、私は朱里ちゃんと居間でお茶していたんだ、本当に知らなかったよ。もし、万が一そんな危険な場面に出くわしていたら、真っ先に助けるに決まってるじゃないか……紋瀬くんを」

息子の問いに、彼はしらっと答える。

「あの…僕は?」

「お前はそんなに柔な人間じゃない。自分で何とかできるだろう?」

子供じゃないんだからと、正文は笑った。

「ふざけるなっ!」

思わず秋文は大きな声で怒鳴りつける。

「ふざけてなんてないよ、現にお前はこうして元気じゃないか」

「ぐっ…」

殴りたいのを堪え、拳をギュッと握りしめると呑気な父親を睨みつけた。
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