「紋瀬くん、具合はどうだい?」

「あ、父さん」

秋文はしーっと人差し指を口元に当てると、ベッドに視線をやる。

「今、寝てるから」

「あぁ、ごめん、ごめん…」

病室に入ってきた正文は、少年の寝顔を見て声のトーンを落とした。

「秋文の方が終わるの、早かったんだな」

「肩の傷以外は、打ち身と擦り傷だけだったからね」

外来で診察と手当てを受けて、そのまま紋瀬の顔を見に上の病棟に上がってきたのである。

その間、正文は入院の手続きやら着替えやらの準備に追われていたらしい。

手には紙袋を二つほど下げていた。

「父さん、相田は?」

「さっき家に寄ったら、自分のアパートに帰るって言うからお前の服を着せて駅まで送ってきたよ」

「そっか。あいつもとんだ災難だったな…」

言って、秋文は苦笑いを浮かべる。

「一応、彼に掻い摘んで事情は説明しておいたが、急に鬼だ、憑かれただのと言っても良く理解出来ていない感じだったよ」

「向こうに帰ったら、僕がキチンと話しをするよ…ただし、あいつがそれまで気にしていたら…だけど」

とにかく相田はアバウトな性格だから、後1ヶ月も会わなかったら忘れている気がしないでもない。

「そう言えば、秋文。ケガの方はどうだったんだい」

「特には…あ、看護師さんたちに『ケンカはダメですよ』って言われた」

あちこち擦過傷だらけの手や顔を見せながら、秋文は笑う。

「ははっ、ケンカには違いないかもしれないな」

そういうと、正文は秋文の肩にポンと手を置いた。
.