瞬間、光が反射したわけでもないのに白く輝く。

「な、何だこれ…!?どうなってるんだよ!!」

秋文はパニックになる。

「あんたに…鏡が、反応している」

つぶやくように紋瀬が言った。

「その鏡は特別強い力を持った鏡だ。あんたにしか、使いこなせない…」

「教えてくれ、印って何だ?」

秋文の指が光を放つ鏡面に軽く触れると、まるで水のように波紋を描く。

《ほぅ…逆鏡の中にも稀に鏡の力に守られた存在がいると聞くが、お前がそうか》


仲間と接触しても生き残った理由が分かった、と鬼が笑った。


(あれ…ちょ、待て。この鏡、正兵衛のものじゃないぞ!?)


そういえば、あれは父親に渡したままのはずだ。

ではこれは紋瀬が作ったもの…坂上の家を訪ねた時、作業部屋にこれと似たようになものがあったのを記憶している。

落ちこぼれの秋文にだって、これがすごい代物だという事は分かった。

それくらいに凄まじい力を感じる。


(たかだか十六歳の子供が、こんなものを作れるのか?)


それとも鬼に対する憎しみと執念が、そうさせるのか。

半端な気持ちでは、到底作れる代物でない。


(僕とは覚悟の桁が違うってことかよ)


秋文はゆるりと口端を歪めた。

「う…」

腕の中で紋瀬が小さく呻く。


(出血が酷い…こんな事を考えている場合じゃない。早く鬼を封じて、彼を病院に連れて行かないと)


鬼は多少鏡の力に恐れを抱いているようで近づいては来ないが、封印するまで目の前から消えてくれそうにはなかった。
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