躊躇した時、鬼が襲い掛かってきた。

「わっっ!!」

生まれてこの方、体を張った喧嘩などしたことのない秋文だ。

鬼相手にどうしていいか分からず、戸惑っていると、


ビュッ


頭上高く振り上げられた鬼の腕が、音とともに空を切る。

寸での所で避けたものの、向こうの動きは想像以上に素早かった。

わずかに出来た隙を見逃さなかった次の攻撃が、秋文の服を裂き、肩を傷つける。


(!! しまった)


持っていた鏡が手から落ち、地面の上を転がっていく。

焼けるような痛みが彼を襲い、じわりTシャツに血が滲んだ。

それを見た鬼は、長い舌をチロリと出して舌舐めずりをする。


《いい匂いがするな…》


甘美だというような顔。

秋文の血が、鬼の感情に火をつけたようだった。

大きな咆哮をあげると、体を包んでいた炎がひと回り激しくなる。


「こいつ…体がデカくなった…?」


秋文はごくりと唾を呑んだ。


《お前の血はいにしえの力を呼び覚ます…我の力を増幅させる…懐かしい…お前一人を喰らえば充分だ!!》


「オレを忘れるなよ」

鬼が秋文一人に狙いを定めたのを悟って、紋瀬が口を挟んだ。

だが、


《お前に興味はない》


「!」


短く答えると、鬼は彼の体を叩き払う。

ザザザザザッ

華奢な体の少年は、砂埃をあげながら地面を滑るように飛ばされた。


「紋瀬っ…!!」


血を見て興奮した鬼が、勢いに任せて秋文を地面に押し倒すと、にやり笑う。

「くっっ!!」

炎の熱さに秋文の口から堪える声が漏れた。

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