秋文は紋瀬の腕を掴むと、境内を走り出す。

「どうやったらあいつを封じれるんだ!!」

「知るわけないだろ。オレは逆鏡で破魔じゃない」

「えっ、だってさっき封じろって…」

「それはあんたの専門じゃないか」

「おーまーえーっ、知らないで言ってたのか!!」

「あんたこそ、破魔のくせに封具の使い方も知らないのか」

『くせに』の所を思いっきり強調されて、秋文はカチンときた。

この生意気な少年は、ああ言えばこう言うので困る。

「お前、結界張ってただろ。少しは扱えるって事じゃないのか?」

「結界じゃない」

「はっ?」

「あれは魔よけの鏡だ。鏡に力が宿っていれば、素人でもできる。寝言は寝て言えよ」

「な、何だとっ!」

二人は言い争っていたが、見る間に鬼に追いつめられる。

「いいから早くしろっ」

額に汗を浮べたまま、紋瀬は叫ぶ。

口では悪態をついているが、その表情には余裕がなかった。

「封印するなら、完全体でない今しかチャンスはない。こいつは以前鏡に封じられる前は、人間を三十人も一度に喰ったことがあるくらい凶暴なやつなんだ。半人前のオレたちが敵う相手じゃない!」

その時、炎の中に相田の姿が垣間見えた。

「…待ってくれ」

「何だ」

紋瀬は段々イライラしてくる。

なぜ嫌だとか、できないだとか、否定的な言葉しか口に出さないのか。

なぜ自分の意思でやろうと思わないのか。

これだけの力を持っていながら、現実から目を逸らそうとするのか。

「鬼を封印したら、依りつかれた人間はどうなる?」

「どれだけ支配されてるかで状況は変わる。オレじゃわからない」

「やっぱり無理だ。親父に頼まなければ、素人の僕じゃ下手に手は出させない。この鬼が依りついている人間は、僕の知り合いだ。友達なんだよっ」

「だが、どの道このままじゃダメになる」

選択の余地などない状況に、秋文は唇をきつく噛みしめた。

「相田、正気に戻ってくれよ」

鬼に憑かれた相田に、彼の言葉は届かない。
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