「お疲れ様」

「あ…朱里。サンキュ」

秋文は起き上がると、幼なじみの高林朱里(しゅり)からコーヒーを受け取る。

彼女は幼稚園、小・中・高校と14年間共に同じ学校を通った同級生であり、家が近所だったことから遊び友達でもあった。

その後、秋文は大学を受験し県外へ、彼女は高校卒業後も地元に残り、進学せずに実家の花屋を手伝っている。

今はガーデニングの勉強をしながら、資格取得を目指しているところだ。

けれど、意外と言えば意外だった。

周囲の誰もが、活発で明るい性格の朱里は大学へと進み、故郷を出ていくものだとばかり思っていたのだ。

しかし、彼女は現在こうして地元に残っている。

「秋文の友達、とうとう来なかったね」

朱里はエプロンを外すとテーブルの向かいに座り、缶コーヒーを1口飲む。


「あぁ。相田のヤツ、何かあったのかな」


来る予定の前日、秋文がメールを入れた時には必ず行くという返事があったのだが…。

それきり連絡は途絶えてしまった。

こっちも祭りの準備や後片付けに追われていたので、忙しくうやむやになってしまっていたのだ。

仕方ないなと、秋文はタメ息をつく。


「急な用事でも入ったんじゃない? ほら、夏休みだから」


朱里が慰めの言葉をかけてくれたが、彼の気分はスッキリしなかった。


「…だと、いいんだけどな」


「そんなに気になるんだったら、後で電話してみたら?」


「うん、そうしてみるよ」