何か違和感がある。

確かにこの鬼は今まで見てきたものより、遥かに強い力を持っているのだが…。


(何だ…何かが引っかかる…)


ゆっくりと鬼の全身を確認する。

揺らめく炎を纏い、紋瀬たちの目から上手くそれを隠しているようだ。


《どうした、怖気づいたか》


防御陣の外で対峙する鬼は、鋭い牙を口元から覗かせてからかうように言った。

「―――そうか…この鬼は完全体じゃないんだ…」

「どういう意味だ?」

秋文は訳が分からなくて、訝しげな顔をする。


「この鬼は右目がないんだ。よく見てみろ!」


じっと言われるまま、秋文は目を凝らした。

何となくだが、ないようにも…見える。

しかし、正直はっきりとは分からなかった。

「それが揃ってしまえば、オレたちでも手がつけられなくなる可能性が高い。おじさんに目の在りかを聞いた事がないのか?」

「そんなの聞いたことがない。大体、本物の鬼が祀ってあるっていうのも知らなかったんだ。ずっと昔から伝説だとばかり――」

完璧に怒っている紋瀬と目が合う。

「使えない…あんた一体、今まで何を学習して生きてきた訳?」

カチーン。

「文句なら何も教えてくれなかった親父に言ってくれよっ」

「自分から知ろうともしなかったくせに、人のせいになんてするなっ」

こんな時だというのに、2人の言い合いは果てしなく続く。
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