はぁ、はぁ、はぁ…。

朱里と別れて走ってきた秋文は、息を切らしながら辺りを見回した。


「確かこっちに来たと思ったのに」


朱里と歩いていた場所から、チラリとだが見えた人影。

あの背格好は、間違いなく相田だった。

それも鬼ではなく、人間の気配を漂わせた…。

先ほどの騒ぎで鬼が放れたのかもしれない。


(どこだ…どこに行った…)


放っておくわけにはいかない。

そう思って必至で探し回っているうちに、いつしかあの御堂に続く階段の下まで来ていた。


(もしかしたら、戻ってきているのか)


仰ぎ見ると、秋文は石段を駆け上がる。

空は夕闇に包まれ始めていた。

その中にひっそりと佇む御堂は、酷く寂れて見える。

ギギギギギ…。

カギのかかっていない、からっぽになった御堂の扉を開けて中に入った。

古くて傷んだ床板は、歩くたびに悲鳴を上げるように軋む。

祀るもののなくなった空間はがらんとしていた。


「……」


秋文はそっと、掛けていたメガネをずらし辺りを見たが、薄暗い御堂の中では何の変化も感じられない。


(だよな…そうそう戻ってくる訳がないか)


秋文が諦めて家へ帰ろうと扉の方を振り返った時、いつ入ってきたのか、目の前に捜していた相田が立っていた。

ビクッ!!

驚きのあまり、体が一瞬硬直する。


「相田…」


彼に向かって秋文は恐る恐る声を掛けた。
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