「はぁ…」

秋文はタメ息をついた。

「ちょっと、さっきから暗い顔しちゃってタメ息ばっかり」


「えっ?」


言われて、ハッとする。

「何か秋文、変だよ…」

朱里が心配そうに顔を覗き込んで言った。

「ちょっと色々あってさ…」

「ひょっとして、あの割られた鏡の事?」

「それも…あるんだけど…」

「どうしたの?」

遠くを見たまま立ち止まった幼なじみに、彼女は首を傾げる。

すると突然、


「ごめん、用事を思い出した!!コーヒーはまた今度な。じゃあ!!」


朱里の言葉も待たず一方的に言い捨てたかと思うと、そのまま慌てた様子でどこかへ走って行った。

「えっ、あ、秋文!…んもぅ、何なのあれ!!」

1人歩道に残された朱里は、ポカンとする。

「信じらんない…」

いくらここから家まで近いとは言っても、夕刻に女性を1人残し去っていくなんて考えられないと文句を垂れる。


(…ま、秋文にそれを求めるのは無理ってもんかな)


ふぅぅ、タメ息をつくと、朱里は夕焼けに包まれた家までの道のりを歩き出した。
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