怒りの納まらない紋瀬が境内を横切ろうとした時、目の前に人影が立ち塞がった。


一瞬、場に沈黙が流れる。


袴姿の中年男性…。

その顔に、彼は見覚えがあった。


「おじさん…」


「やぁ、紋瀬くん。久しぶりだね」

正文は嬉しそうに彼の両手をとった。

「ご無沙汰してます」

紋瀬は深々と頭を下げる。

「立派になって、お父さんに似てきたね」

「…そう、ですか?」

「うんうん。凛々しい顔立ち、雰囲気、本当にそっくりだよ」

「…」

余りに誉められて恥ずかしいのか、紋瀬は口元を手で覆うと目を逸らす。

「おじさんこそ、十年前と全然変わりませんよ」

一目見て、すぐに分かった。

両親を亡くしたあの日、木谷村までやってきて泣きじゃくる自分をずっと慰めてくれた父の友人。

鬼に関わり合いたくないと遠巻きに見る村人たちの視線など気にもせず、七歳の紋瀬の傍にいてくれた人。


「紋瀬くんは坂上を継ぐんだね」

「はい。オレは両親を殺した鬼を捕らえる為、最高の封具を作ると決めたんです」

「そうか。それが君の宿命ならば、私たちは応えなければならないのだろう」

「ご迷惑をおかけします」

「何を言ってるんだい。迷惑をかけてるのは、私の息子の方じゃないのかな」

「いえ…それは」

紋瀬が言い淀むと、

「悪いと思ったが、君と秋文が話しているのを聞いてしまった。あの子は自分に能力がないと諦めてしまっている。私は立派な血筋を引いていると思っているのだが、本人に自覚がなくてね。まぁ、長い間何も起こらなかったからと甘やかして育てた私が悪いのだが。やりたい事が他にあればやらせてあげたいと思うものでね。すまない」

正文が紋瀬に詫びる。

「やめて下さい。オレはそんな事を言わせる為に、ここへ来たわけじゃないんですから」

さすがの彼も困ったように苦笑した。
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