草、木、鳥、虫…生きているもの全てに生命の宿りを感じる。

「鬼の《気》とは全然違うだろ」

「あぁ。暖かい光に感じるよ」

「邪な気を持つ者は黒い霧のように見えるはずだ。心の中に妬みや嫉妬を抱えた人間も同様の色を放つ。弱い人間はそれに中(あ)てられると、連鎖の反応を起こしさらに負の感情が増幅する。少しずつ蓄積された邪気はやがて体から溢れ、集まり一つになる。それが鬼の正体だ」

秋文は相田に憑いた鬼を思い出し、ぞっとする。

鬼は人間の心が生み出したもの…。


(あの醜い存在が、人間の心だって?)


考えただけで、どうしようもなく気分が悪くなってくる。

「もうギブアップ?」

「…こんなもの見たくない」

秋文は首を横に振って否定する。

「あんたって本当にヘタレだな」

小馬鹿にした感じで紋瀬はつぶやく。

「あの鬼、捕まえるんじゃなかったのか?」

「掴まえるも何も、僕には出来ない」

「浜一族の十八代目がこれじゃ、おじさんは泣くだろうな」

「!!」

「あんたの力、オレにくれよ。そしたら一人でも鬼退治ができる。どんなに優れた力でも、使わないでしまっておくんじゃ、ただの宝の持ち腐れだ」

言いたいことだけ言うと、紋瀬は秋文に背を向けた。
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