ハッとして顔をあげると、銀の欠片が目の前にキラキラと降り注ぐ。


《ガアァァァァッ!!》


それに触れた鬼の、凄まじい咆哮が辺りに響く。

「早く立てよっ」

秋文を背に庇うように現れたのは、紋瀬だった。

襲いかかろうとする鬼の足元に向かって、彼は何かを投げる。

それを踏んだ瞬間、

じゅぅっ!!

皮膚を焼く音がして、鬼は悲鳴をあげ暴れ苦しむ。

両手を振りまわし、辺り構わず暴れもがく。

大地に振動が響き、木が砕け、砂がぶわりと宙を舞った。


《オノレェェ!!》


凄まじい声を上げるが2人に近づくことができず、鬼は山の奥へと姿を消した。

「後を追わないと!!」

慌てて立ち上がる秋文の腕を掴むと、

「その必要はない」

紋瀬は短く言い放つ。

「どうして!?」

「今のあんたが追っていったところで、何もできないからな」

「でも逃がせば他の人に危険が及ぶかもしれないだろ」

「心配しなくても、今の鬼はあんただけが目的だ。他の人間に迷惑かけたくなかったら、この敷地から出なければいい」

目も合わせず、彼は砕けた鏡を拾い上げた。

「そう言えば、何で君がここに…」

汗で額に貼りつく前髪をかきあげながら、秋文は問いかける。

「鬼の気配に気付かない鈍い神経してるから、ついて来たんだ。そしたら案の定の展開だし」

紋瀬は木谷村に秋文が足を踏み入れた時から、彼の周辺を鬼がうろついている事に気付いていた。

自分の両親を鬼に目の前で殺された過去を持つ紋瀬は、心配になって彼の後を追ってきたらしい。
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