その言葉に反応したのか、相田がゆらりと秋文に近づいてくる。

ぶわぁっ!!

次の瞬間、彼の全身が発火しオレンジの炎に包まれた。

「な、どうなってるんだ」

熱い。

秋文は両手で顔を庇った。

周囲の草が、燃え燻(くすぶ)り始める。

彼の歩いた後には、炎の道…これは本物の火、だ。

幻覚や幻なんかじゃない。

しかし生身の体でありながら熱さを感じないのか、相田は沈黙のまま距離を縮めてくる。

振り上げられる手。

秋文は慌ててかがみ込み避けると、相田の脛を蹴り押した。

「ちっ!!」

しかし体躯のいい親友はビクともしない。

やがて彼を包む炎が次第に鬼の形を現すには、そう時間はかからなかった。

「まさか…お前があの鏡を割ったのか」

この土地に足を踏み入れて、鬼に魅入られたとしか思えない。

だけどなぜ、彼が選ばれたのか。

「答えろ、相田っ!!」

困惑する秋文。

その時、相田の振り下ろした腕が彼の顔を掠めた。

「う、わっ!」

バランスを崩して地面に倒れこんだと同時、左目に違和感が生じて焦る。

「コンタクトが!!」

どうやら今の拍子に落としたらしい。


(こんな時に…!)


ぞくりとする何かが体に走り、はっとして秋文は相田の気配に視線を向けた。
.