風呂上がりの夕涼みと称して何となく境内を散歩していた秋文は、ふと地面を見て足を止めた。

「あれ…?」

境内に見覚えのある、奇妙で大きな足跡。


(これ八助さんとこの庭で見たのと同じ…もの?)


だとすると、鬼の足跡ということになる。

まさか…。

急に心臓がドキドキしてきた。


(もしかして、僕の後をつけてここまで来たのか!?)


ここには浜の正統な後継者・正文がいる。

狙われるとすれば、それは秋文ではなく…。

紋瀬の両親が襲われた話が、脳裏を過った。

「父さん…」

秋文は危険を感じ、踵を返そうとして振り向きざま、誰かにぶつかった。


「痛ってぇ…………あっ!!」


目の前に現れたのは、ずっと連絡のとれなかった親友だった。

「相田!!連絡とれないから心配してたんだぞ…その格好、どうしたんだ?」

彼の着ているTシャツもジーンズも薄汚れている。

まるで何日も風呂に入らず山の中の獣道を歩いていたかのように、所々裂けた箇所もあった。

「もしかして道に迷ってた、とか」

言ってみて、そんなはずはないと思う。

来るはずの日から、6日も経っているのだ。

それはあまりにもおかしいだろう、と思う。

更に変なことに、彼は荷物らしきものを持ってもいなかった。


「…相田…?」


「…」


だが、どれだけこちらが話しかけても彼はじっと立っているばかりで口を開かない。

虚ろな目、生気のない顔色、だらりと体の横に垂らしている腕。

見慣れたはずの友人が別の人物に見えて、秋文は一歩後じさる。

秋文は何だか異様さを感じて怖くなった。
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