「ただいま…」


玄関を開けると、

「やぁ、秋文お帰り。ご苦労だったね」

帰って来た秋文を、笑顔で父が迎える。

「どうだった、八助さんは元気だったかい?」

「うん。父さんに宜しくって言ってた」

「そうか」

「ところであの鏡なんだけど…修復をお願いしたら無理だって言われて、その代わりに新しいのをくれたよ」


「…やっぱりね」


正文はある程度分かっていたのか、苦笑した。

「はい、これ預かってきた鏡」

「ありがとう」

正文は風呂敷包みを受取る。


「……」


「どうかした?」


緊張した面持ちの父に、秋文は気付き尋ねた。

「…いや、八助さんは随分と凄い鏡を預けてくれたんだなぁと思ってね」

「父さん、中見なくても分かるの? それ、十二代目・正兵衛さんが作った鏡だって言ってたよ」

「十二代目…そうか、あの鏡を…」

「鏡の事、知ってるんだ」

「あぁ、昔一度だけ見せてもらったことがあってね。いや、懐かしいよ。秋文、疲れただろう? お風呂沸かしてあるから、入ってくるといい」

「じゃあ、お言葉に甘えて先に入らせてもらうよ」

父の様子が何となく気になったが、それ以上は聞かず彼は自分の部屋に向かった。

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