風鈴の音が涼やかに響く…。

目的の鏡も受け取り、後はバスに乗って帰るだけだったが、時間に多少余裕があった秋文は縁側に座り、山から吹いてくる風と緑の匂いに浸っていた。

せっかくここまできたのだ。

ここにしかない田舎の良さを少しは味わって帰りたい。


(ここは本当に静かだな…)


車の音などない、耳に入ってくるのは自然の音ばかりだった。

ボーっとしていると、

「冷たいお茶はいかがかな」

八助がやってきて、盆に載せた茶托を秋文の横に置いた。

「はい、いただきます」

「今度来られる時は、もう少しゆっくりしていくといい」

「そうですね。今回は鏡の件で突然訪ねてきて、ご迷惑をおかけしました」

「いやいや。秋文どのの顔を見れて、嬉しかったよ」

八助は秋文の膝をぽんぽんと手で叩くと、お茶を飲む。

「帰りは一人で本当に大丈夫かな」

「ええ。道も分かりますし、後は鏡を持って父の所へ帰るだけですから」

「うむ…そうじゃな」

だが、何か心配事でもあるのか八助は歯切れが悪い。

ざぁぁぁぁ…

風が木々の葉を揺らした。
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