「あなたの気は強い。その気に鬼たちは引き寄せられて、山から村に降りてきた。だから、鬼があなたを見つける前に、オレは鏡を使った。あれは、そこにあるものの姿を隠す鏡。鬼が何度も辺りをうろついた形跡があったでしょう?」

確かにあったが、簡単に言われても現実味がない。

「君は、そんなことができるのか?」

驚いた秋文が問うと、

「オレに力はありません。ただ鏡の使い方が人より少しわかるだけです。オレにできるのは、鏡を作ることだけだから」

「僕は普通の人間だ。鬼に狙われるとは到底思えない」

「あなたは浜一族の人間だ。自分では力がないと思っていても、やはりどこか普通の人とは違うことが彼らにもわかるんでしょう」


オレにだって、それくらいは分かる。


そう言うと、紋瀬は家の中へ入っていった。

「…」

秋文は考え込む。


(僕が浜の人間だから、か…)


そういえば、初めて八助にあった時も同じことを言われた。

浜…本当は『破魔』の意。

鬼を封じる為の血を受け継ぐ一族。

そして坂上は浜一族と対になる存在。

『逆鏡』の意を持つ。

通常は魔をはね返す物だが、彼らが作る鏡はその逆で魔を封じる魔封具となる。

二人で一人。

しかし、完璧なまでに鏡を作ることのできる紋瀬が狙われるのならわかるが、力が何であるかも知らない自分の命を狙いに来るなんて変な感じだ。

一族の血が当てにならないことは、秋文自身が一番良く知っている。

全くをもって迷惑な話だ…。
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