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学校が終わり、家の門をくぐった所で紋瀬は足を止めた。


「オレに何か用ですか?」


いつもと変わらない、冷静な声。

紋瀬は押していたバイクのスタンドを立てると、ヘルメットを手にした。

「あるから待ってた」

不機嫌を露わにした顔で、彼は答える。

「その様子だと、庭の鏡を見たんですね」

紋瀬は、玄関の所で腕を組んでいる秋文に近づいて言った。

「教えてくれ。庭に鏡を埋めた周辺に、大きな足跡がいくつも残っていた。一体、君はあの鏡で何をしたんだ?」

じっと秋文は紋瀬の目を見つめる。

すると彼は視線をそらすことなく、真っ直ぐな目で答えた。

「あなたの気配を、あの鏡を地面に埋めることにより消したんです」


「僕の、気配?」


意味が分からず、首を傾げる。

その様子を見て、紋瀬はあからさまタメ息をついた。


「本当に何も知らない…というか、恐ろしく感じないみたいですね」


「なっ…」


秋文はカッと顔が赤くなった。

初対面の時からそうだが、どうしてこんなに人を馬鹿にしたような態度なのか。

それは確かに、ボーッと過ごしてきたんだから嫌味の一つも言われるのは仕方ないのだが、年下にこんな扱いをされるとものすごく凹む。
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